今日は読者の方から「先日、ロシアが日本の外交官を追放したのを受けて、日本もロシアの外交官を追放しましたよね?このペルソナ・ノン・グラータって何ですか?国際法として認められているんですか?」という質問をいただきましたので、「ペルソナ・ノン・グラータ」について今日は説明したいと思います。
この記事を読めば、「ペルソナ・ノン・グラータ」の法的な性格や、実情などについて理解することができます。こういう何気ないニュースにも国際理解をするためのヒントが隠されていますので、1つずつ理解してきましょう。
学生さんのみならず、時事ニュースを深く知りたい社会人の方にもオススメの記事ですので、最後まで読んでみてください!
「ペルソナ・ノン・グラータ」って何?難しそうだね
新聞などでは難しく書いてあることが多いけど、今日はなるべく簡単に説明するね!
※因みに命のビザを発給し続けた有名な杉原千畝さんも元外交官です。そんな杉原さんはた「インテリジェンス・オフィサー(諜報外交官)」という一面も持っていました。
そんな杉原千畝さんも「ペルソナ・ノン・グラータ」を受けて、当時のソ連のモスクワに入国することができませんでした。杉原さんの半生は以下の本に詳しく書かれていますので、ぜひ読んでみて下さい!
大前提:一般人は対象外。対象になるのは外交官。
まず、大前提として一般人は「ペルソナ・ノン・グラータ」の対象外になります。対象になるのは、外交官のみです。では「ペルソナ・ノン・グラータ」の具体例を見ていきましょう。
「ペルソナ・ノン・グラータ」の事例
まずは、「ペルソナ・ノン・グラータ」の事例を見てみましょう。外国政府間のペルソナノングラータはたまに行われますが、ここでは日本政府が対象となったペルソナノングラータの事例を取り上げます。
ロシアのウクライナ侵攻への抗議として、日本政府が発動
2022年4月8日、日本政府はロシアのウクライナ侵攻への抗議として、8名の駐日ロシア大使館の外交官と通商代表部職員の国外退去を在日ロシア大使に通告しました。
各国がロシアによるウクライナ侵攻に抗議するため、各国駐在のロシア人外交官の追放を行っていることを受けて、日本もその動きに同調したというのが実情かと思います。
引用元:駐日ロシア大使館の外交官及びロシア通商代表部職員の国外退去(外務省報道発表,2022年4月8日)
ロシアによる、日本の外交官に対するペルソナ・ノン・グラータ通告への対抗措置
2022年10月4日、日本政府は、ロシア側による、在ウラジオストク総領事館員に対するペルソナ・ノン・グラータの通告を受けて、在札幌ロシア総領事館領事1名に対して、ペルソナ・ノン・グラータを通告し、6日以内、すなわち、10月10日までの国外退去を要請しました。
これは、ウラジオストクにある日本の総領事館職員(外交官)がロシアでスパイ活動をしていたというロシア側の主張により、国外追放処分になったことを受けて、日本政府がロシアに対抗して、日本にいるロシアの外交官を追放したっていう事件ですね。
引用元:森健良外務事務次官によるガルージン駐日ロシア連邦大使の召致(外務省報道発表、2022年10月4日
外交官や「ペルソナ・ノン・グラータ」の定義などを確認
では、以上の事例も踏まえて、「ペルソナ・ノン・グラータ」の詳細を見ていきましょう。
外交官を外国に派遣する場合は、派遣される国の許可が必要
まず、「ペルソナ・ノン・グラータ」を受ける外交官っていう職業は御存知でしょうか。自分の国を代表して、相手の国と交渉したり、自分の国の立場を相手国に説明したりする職業です(ざっくり言うと)。
この外交官って、基本的に相手国の許可がないと、その国で働くことはできません。大使などの重要な人物になると、「アグレマン」という正式な許可を文書で取得する必要もあります。その他の外交官は、その国の外交査証(一般的にはビザと言われていますね)を取得します。当然、査証なので相手国の許可が必要ということになります。
その外交官を追放できてしまうのが、この「ペルソナ・ノン・グラータ」なのです。
「ペルソナ・ノン・グラータ」の定義を確認
まずは「ペルソナ・ノン・グラータ」の定義を確認しましょう。外交関係に関するウィーン条約第九条1には以下のとおり規定されている(国際法上認められている権利ということですね)。
外交関係に関するウィーン条約
第九条 1 接受国は、いつでも、理由を示さないで、派遣国に対し、使節団の長若しくは使節団の外交職員である者がペルソナ・ノン・グラータであること又は使節団のその他の職員である者が受け入れ難い者であることを通告することができる。その通告を受けた場合には、派遣国は、状況に応じ、その者を召還し、又は使節団におけるその者の任務を終了させなければならない。接受国は、いずれかの者がその領域に到着する前においても、その者がペルソナ・ノン・グラータであること又は受け入れ難い者であることを明らかにすることができる
出典:https://www1.doshisha.ac.jp/~karai/intlaw/docs/diplomat.htm
難しい言葉ばかりで難しいよ。もっと簡単に説明してよ。
まあ、慌てないでゆっくり説明していくから。
ペルソナ・ノン・グラータの重要ポイント3選
「ペルソナ・ノン・グラータ」をすごく簡単に言うと、「自国に駐在しているある国の外交官をいつでも、理由を示さずに国外に追放することができる」っていう制度です。「ペルソナ・ノン・グラータ」のポイントをまとめると以下のとおりです。
「いつでも」
この「ペルソナ・ノン・グラータ」はいつでも発動することができます。基本的には上の例のように、外交関係上何か問題があった場合に発動されることがほとんどですが、特に何も問題がないときでも発動することは可能です。
でも、特に何も問題がないのにある国が「ペルソナ・ノン・グラータ」を発動をしてしまうと、「うちの外交官を勝手にペルソナ・ノン・グラータしやがって!ふざけるな!」となり、ペルソナ・ノン・グラータを受けた国も同じようにペルソナ・ノン・グラータ返しをします(上の例だと、今年の10月の日本の対抗措置がこれに当たります)。
因みに、この「ペルソナ・ノン・グラータ」返しは、外交上の相互性に基づいてます。つまり、外交官1人を追放されたら、された方の国も同じように外交官1人を追放します。今年の10月のペルソナ・ノン・グラータの応酬はまさにこれでした。
「理由を示さず」
また、「ペルソナ・ノン・グラータ」は特に理由を示さないでも発動することができます。「あいつ気に食わないから、追放してしまおう!」としても、国際法上は何の問題もないのです。
ただ、先ほどの「いつでも」のところでも説明しましたが、特に何も問題がないのにペルソナ・ノン・グラータを発動すると、相手政府も怒って、ペルソナ・ノン・グラータ返しをしていきます。
だから、ペルソナ・ノン・グラータはあまり発動されることはないよ
出国のタイムリミットが設けられる
ペルソナ・ノン・グラータを通告する際に、一般的にその外交官の出国のタイムリミットが設けられます。2022年10月の方の記事では「6日以内、すなわち、10月10日までの国外退去を求める」とありますね。これが出国のタイムリミットです。
え!?6日以内に出国の準備をするの?厳しくない??
そうだよね。だから、外交官が住居契約をするときは「外交官条項」が設けられている場合もあるんだ。
私はこの6日後に追放というニュースをみて、「日本政府は優しいなぁ」と正直思いました。先ほどの在ウラジオストク総領事館の外交官がロシアからペルソナ・ノン・グラータを受けたときは、48時間以内、つまり2日以内の出国でした。2日以内と6日以内では時間的な余裕がかなり違いますよね。
因みに、(日本国内の事情は承知していませんが)海外で外交官が住居の賃貸借契約を結ぶ際には、「外交官条項」が契約の中に設けられています。外交官は突然、ペルソナ・ノン・グラータを受けて、48時間以内などの短時間に出国をしなければいけないため、通常、賃貸借契約に予めペルソナ・ノン・グラータを想定した条文が盛り込まれています(恐らく日本にいる各国の外交官も同様だと思いますが)。
実際、「ペルソナ・ノン・グラータ」はほとんど発動されない
以上見てきたように、「ペルソナ・ノン・グラータ」というかなり強烈な権利が、各国に認められていることがご理解いただけたかと思います。でも、この「ペルソナ・ノン・グラータ」はほとんど発令されません。
なぜなら、先ほども説明したように、A国とB国が外交上特に問題がないにも関わらず、A国がA国にいるB国外交官に「ペルソナ・ノン・グラータ」を発動してしまうと、「ふざけるな!」となってB国が怒ってしまうからです。そうすると、A国とB国の関係も悪化してしまいます。
このような強力な権利が各国に認められているのも、各国は、他国の外交官を受け入れるかどうかを決める権利を有しているからです。ただ単に、「外交官追放!恐ろしい」という感情を抱くのではなく、1つ1つの外交上の動きにも、権利や根拠があることを理解すると、さらに国際理解が進むことになるでしょう!!
一般人は対象外!?外交官を追放する「ペルソナ・ノン・グラータ」をわかりやすく解説!~まとめ~
いかがでしたか?今日の記事について最後におさらいをしましょう。
本日のまとめ
✅ペルソナ・ノン・グラータの対象は外交官。一般人は対象外。
✅いつでも、理由を示さず発動できるが、発動された場合、相手国からもペルソナ・ノン・グラータ返しを受けて、両国の関係が悪化する
✅ペルソナ・ノン・グラータを受けた場合は、48時間以内など短時間での出国が求められる
✅急な出国を求められることがあるため、外交官が賃貸借契約を締結する際は、契約書に「外交官条項」が設けられることがある。
聞き慣れない言葉だけど、ペルソナ・ノン・グラータの基本を押さえて、国際理解を深めていきましょう!
【参考1】ペルソナ・ノン・グラータを受けた外交官・杉原千畝を理解したい人へオススメの本
この本は「Amazon Kindle Unlimited」なら無料で読めるよ。30日間の無料体験中にも解約できるから、安心だね!
うわぁ!30日間の無料体験中なら完全無料で杉原千畝さんに関する本が読めるね!
そうだね。あと、コメントや質問は大歓迎だよ。コメント欄やお問い合わせフォームから何でも気軽に聞いて下さいね(コメント欄はこの記事の最下部です) ※いただいたコメントは全て拝見し真剣に回答させていただきます。
【参考2】鈴木ケイタスクールとは?
鈴木ケイタスクールでは、主に以下の7つのテーマについて有益な情報発信を行っています。
国際・留学に関心がある方には「フランス語関連」や「国際関係などに関する分析」などが参考になると思うので、ぜひご覧いただければと思います。
コメント